海のない奈良県に伝わる貝ボタンの技術
奈良県奈良盆地のほぼ中央に位置する川西町は貝ボタンの生産地。なぜ、海のない奈良県にその技術が伝わったのかというと、明治時代、ドイツ人技師が神戸に伝え、その後、奈良県に伝わったそうです。
川西町には町の名前に川があるだけに、川が多くあり、船が重要な運送の役割をしていた時代には大阪と結ぶ船運の集積地でした。この地理的な特徴が海のない奈良県に貝ボタン製造が伝わり、栄えた理由の一つです。
受け継がれる貝ボタンの製造
最盛期には川西町に約数百戸が貝ボタンの製造に関わったとされていますが、現在はプラスチックボタンが増えたことから、貝ボタン製造に関わる事業者はかなり激減されています。
貝ボタンは割れやすい、洗濯が手間などの理由から敬遠されていることもあるようですが、実際はそんなことはなく、貝ボタンは実はそれなりに丈夫で、株式会社トモイ様からお話を聞くと、厚みを持たせるために皮の部分をほぼ取り切らずに皮を多く残して作ってしまった場合、割れやすい貝ボタンが作られてしまうそうです。トモイ株式会社様では、皮の部分をしっかり取り切って、真珠層だけで作るということを徹底されています。
また洗濯の部分も最近の洗濯機は手洗いコースなどもありますので、洗濯ネットに入れて、そのようなコースを上手く活用していくとそんなに手間にはなりません。
クリーニング屋さんへ出すときも貝ボタン使用と分かれば適切に処置していただけます。
今回、訪問させていただきました株式会社トモイさんは創業1914年の老舗です。貝ボタンの製造は基本は分業制ですが、こちらは製造を一貫して生産できるのが特徴です。貝ボタンが出来上がるまでには大きく分けても10工程。これほどまでの工程が必要ということは、初めて教えていただきました。
今回は四代目となる社長さんの息子さんに製造過程をご案内いただきました。
貝ボタンの製造工程
1.抜き
貝をボタンの形にくり抜く工程です。
貝の種類は高瀬貝、黒蝶貝、白蝶貝、茶蝶貝、アコヤ貝など。真珠を養殖した後の貝を使用することもあり、廃棄を減らす取り組みにもつながっています。現在は、産地でくり抜いたものをベトナムなどから輸入。海で生きている貝の殻だけを使用し、海中で死んでいる貝は割れやすいため、使用しないという徹底した品質管理をされています。
2.ロールかけ
くり抜かれた貝を厚さ別に選り分けます。
出来上がりのイメージに合う厚みの素材を選ぶために選り分けを行います。0.数ミリの厚みの違いも選り分けることにより、ボタン着脱時の手のなじみ方に違いが出てきます。
3.すり場
仕上がったときに一番美しく見える厚みに調整します。
さらにくり抜かれた貝の材料の厚みを統一するために回転させながら、両面を削ります。ここでもボタンになった時を想定した0.数ミリ単位の工程が組み込まれています。
4.型付け
ボタンの形に彫る工程です。
貝の裏表を目で確認して、ボタンの表面に型を付けます。機械は裏表を判断できないので、セットするのは一枚一枚人の手で行います。
大きいサイズのボタン等は手挽き対応もされています。
5.窄孔(さっこう)
ボタン穴を開けていきます。
硬い貝に穴を開けるため、よく切れるように針を研ぎ、その針は、職人技のメンテナンスも必須です。研ぐタイミングや研ぎ具合にも熟練の勘が頼りです。
6.化車かけ
ボタンの角に丸みをつけます。
化車と呼ばれる箱の中にボタンと水と磨き砂を入れて、3~4時間回転させます。丸みをつけ過ぎてデザインが損なわれないよう、作業時間を調整するのも勘が必要です。
7.彫刻
ボタンの表面に彫刻していきます。
文字やモチーフをボタンに彫刻して、デザイン性を出していきます。イタリア製のレーザー彫刻機は短時間で正確さが売りです。デザインによっては手彫りでの対応もされています。
8.艶出し
艶を出す工程
テッポウと呼ばれる木桶に熱湯とボタンを入れ、上部にあるガラスの容器に入っている薬品を点滴のように垂らしながら、約1時間回転させてボタンに艶を出します。気温や水温、ボタンの大きさによって微妙な調整をされています。
9.磨き
手触りよく仕上がるための工程
ロウを付着させたもみをボタンと一緒に木箱に入れて約1時間回転。ちょうど良いタイミングで動きを止めると、ロウの効果で貝ボタンが滑らかな手触りに変わります。実際に比較して触らせていただきましたが、その前も滑らかさはありながらも、磨き後の手触りは段違いに滑らかになっていました。
10.検品
厳しい選別眼
1等品、2等品に人の目で選り分けていきます。迷ったら、2等品に仕分けるほど厳しく分別されていきます。経験を生かした眼力でスピーディーに分別していきます。
11.出来上がり
何工程も経て貝ボタンが完成
奥行きのある美しい輝きが魅力な貝ボタンが完成。自然の素材ならではの、重量感と存在感があります。
様々な工程を経て輝きを増す貝ボタンの魅力
製造工程を簡単にご説明いたしましたが、簡単にしても10の工程があります。これ以外にも大きさを統一するために篩にかけたり、レーザー彫刻で対応できない場合は、手彫りをしたり、ボタン自体を染色したりと想像以上に貝ボタンが完成するまでには様々な工程を踏んでいます。
だからこそ、その工程のたびに輝きが増し、それぞれが愛着のあるボタンとなって、完成していきます。
伴井社長の想い
日本はコスト優先だが、ヨーロッパのようにデザインが重視され、貝ボタンが見直されるようになってほしいという想いを持たれていました。確かに今は、貝ボタンを市場に見つけることが難しいくらいになってしまっています。日本縫製の洋服と同じくらいの希少価値があるかもしれませんね。
レーザー彫刻による細かいデザインを得意とする株式会社トモイ様の貝ボタンは、国内はもちろんヨーロッパからの引き合いも多く、海外ブランドへ輸出をされているそうです。イタリア留学を経験されている社長さんとイタリア人スタッフがヨーロッパ各地での営業で大活躍されているそうです。また、貝ボタンの生産工程を一貫して対応ができる強みを生かして、細かい要望にも対応されています。
そして何より「人と人とのつながりが大事。」とおっしゃっていた言葉が印象的でした。
貝ボタンを仕入れる先もメールや電話だけのやり取りではなく、必ず現地に何度か足を運んで関係性を作っていくことを重視されているそうです。
その気持ちにはすごく共感できました。私たちRiFUKURUも現地に伺ってお話を聞くことで生産地の背景や生産者の想いを知ることができ、それらを商品やcolumnを通じて、お客様に少しでも届いたら嬉しいと思っています。
今回は、その川西町の貝ボタンを使用したRiFUKURU商品を企画しました。
シャツ地は兵庫県播州織のオーガニックコットン100%を使用しています。
いろいろな想いをのせた特別な一着に仕上がりました。
綿100% 日本製 ロング丈長袖シャツワンピース 播州織オーガニックコットン透かしチェック柄 通販【ニッセン】 (nissen.co.jp)